夜の静寂は一本の電話のベルで壊された。




SWEET DREAMS




「やぁ、子津君。夜分遅くにすまないね」
子津の耳に憧れの先輩からの声が届くと湯上りですでに火照っていた体はさらに熱くなっていく。
牛尾が受話器の向こうで微笑む姿が目に浮かび子津は思わず微笑んだ。
「そんなことないっすよ。迷惑とかじゃないんで全然気にしないでください」
「それでもご家族の方とかもいらっしゃるし、気にしない訳にはいかないよ」
牛尾の小さな心遣いに子津への配慮が伺える。
相手の姿の見えない電話だからこそ、それは余計に重く感じられ牛尾への想いは募っていく。



遠くにいるのに近くに感じられる、電話とは何と便利な物なのだろう。
それが例え些細な部活の連絡だとしても、考えもしなかった憧れの人からのものであるのならそれは永遠の時であって欲しいと願ってしまう。
子津は少し、自分勝手な考えだと思ったが願う事をやめる事は出来ない。









神様、あと一秒で良いんです。
一秒だけあの人と話をさせて下さい。







何度となくそんな言葉が子津の頭をよぎった。
声を聞ける事が嬉しくて、話の内容なんてどうでも良いとさえ思った。
それでも時は無常にも過ぎて行く。







「……それじゃあ、そういうことだからよろしく頼むよ」
「はい、わかったっす」
終わりは近づく。









想いを力に。
力を言葉に代えたい。
子津はそう願う。





「キャプ……おやすみなさい、良い夢を」
願っても出てきたのはこんな言葉。
「あぁ、おやすみ」
子津には牛尾が微笑んだのが分かった。




自分の弱さに未練が残った。
それでも……
















今夜は良い夢が見れそうだ。







ふと子津はそんな事を思った。









アトガキ
ここまで読んでくださった皆様有難うございます。 タイトルのSWEET DREAMSなんですが我が家にきていた留学生から学んだことです。
オーストラリアではおやすみなさいをSweet dreamsと言うそうです。
それをきいてなんか響きが素敵だなと思っているうちに浮かんできたのがこんな話でした。