雪が降ってきた。
降り始めた雪は瞬く間に街中を白く染め上げていった。




HOLD YOUR HAND



「一宮さんっ、雪が降ってますよ」
長戸は受験勉強の為に来ていた図書館から一歩外に出た途端嬉しそうに声を上げた。
一宮は「ガキ」と呟くと家の方へと向かって歩き始めていた。
「あっ、待ってくださいよ、一宮さん」 長戸は慌てて一宮の後を追った。


「それにしても寒いっすね」
雪の降る町を歩きながら長戸が寒そうに身震いをする。
二人の吐き出す息は白い。
「雪が降ってるんだから当然だろ」
一宮はそっけなくそう答えると「俺だって寒いんだから早くしろ」と長戸を急かし、歩いて行く。
いつもなら色んな事を話し掛ける長戸が珍しく何かを考えるかのように黙って歩いている。
すると突然、長戸はポケットの中に入れていた手を出して、一宮の前に差し出した。
「ねぇ、一宮さん。寒いから手を繋いで歩きませんか。きっと暖かいっすよ」
長戸は少しはにかんで笑った。
「バカか、お前は。寒いんなら手袋でもすればいいだろう。変なこと言い出すなよ」 一宮は冷たく言い放つとフイと顔を俯けた。
俯いた顔はほんの少しだけ赤くなっていたように見えた。








「一宮さん、俺合格しました。本当に一宮さんが一緒に勉強してくれたおかげですよ」
少しずつ春らしくなってきたある日のことだった。かかってきた長戸からの一本の電話。
やや興奮気味の長戸の声からは本当に喜んでいるのがうかがえる。
「そうか、よかったな」
長戸は一宮が自分と同じ様に喜んでくれるものだと思っていたためか一宮の態度が少し冷たいと感じた。
「そういえば、一宮さんはどうだったんですか」
「何言ってるんだ、お前。当然、第一志望に合格したに決まってるだろう」
一宮から分かりきった事を聞くなと言わんばかりの答えが返ってくる。
「おめでとうございます。でもそれなら、連絡してくれても良いじゃないですか」 「何で、お前にいちいち連絡しなきゃならないんだ。たかがこれくらいの事で」 たかがこれくらいの事。
一宮からすれば志望校に受かるのは当然のことで大したことじゃないのかも知れないが、好きな人の嬉しいときや悲しい時に同じ感情を共有したいと思っている長戸は、どんな小さな事でも報告して欲しいと思っている。
それなのに、一宮の態度は冷たかった。
「あ……そうですよね。それじゃあ忙しいのにスイマセンでした。卒業式の日に会いましょう」
「ああ、そうだな……」
ボソリと呟いた一宮の声が長戸の耳に遠く響いた。