また冷たい風の吹く季節がやってきた。
突然の別れを告げられた日以来一宮が長戸と会う事はなかった。
一宮が長戸を思い出さない日は無かったそ毎日長戸から電話が掛かってくるのを待っていた。
ただ、言葉や顔に出すようなことだけは一度もなかった。
昨年は二人並んで歩いていた道を一宮は一人で歩いている。
突然、一宮の頬に冷たい物が当たった。
驚いて上を見上げた一宮をめがけて雪が降ってくる。
「雪か……」一宮はそう呟くとアイツ雪が降ると子供みたいにはしゃいだよなと長戸の事を思い出した。
一宮はポケットから出した手のひらをじっと見つめるとしばらくしてからギュっと握り締めた。
「バカみたいだな、俺……」
一宮は鼻で笑い、顔を上げて歩き出す。
隣をすれ違った人の肩が一宮の肩に当たり横を振り向いた。
謝罪もなく歩き去って行ったのは偶然かはたまた運命か、長戸であった。
一宮は驚きのあまり声もだせずにホンの一瞬だけ茫然としていたが人波に呑まれ消えていく後ろ姿を追いかけようと気がつけば走り出していた。
「なっ、長戸っ」
伸ばした腕が長戸の肩に手が届くか届かないかという距離の所で一宮は声をだした。
「誰だよ」と振り返って長戸の顔に困惑の色が映る。
「一宮さん……」
お互いに何も声を出さず、ただじっと見つめあっていた。二人の時間は止まったように見え、周りの風景や音は完璧に姿を消した。二人の頭の中では様々な思惑が巡っていた。
「ねぇ、誰この人」
魔法にかかったような二人を現実に引き戻したのは、一人の少女だった。
実際、少女というには少し年齢が行き過ぎているかもしれないが……
一宮は視線をずらした。一宮の表情は揺らがない、けれどあきらかに不機嫌そうだった。
「すまないな、今からコイツをちょっと借りるな」
一宮は長戸を指差し少女に向かってニッコリと微笑むと長戸の腕をひっぱり歩き出した。
「ちょ、ちょっと何するんですか、一宮さん」
「うるさい、お前は黙って俺に従えばいいんだ」
「俺はあの時、もう二度と会わないって言ったはずですよ」
「うるさいって言ってるだろう」
一宮は一方的に長戸の腕を引っ張り歩いて行く。
どの位歩いたのだろうか、繁華街から少し外れた路地裏のところで長戸は一宮の腕を振り払った。
「やっぱり俺、あの子の所に戻ります」
長戸はくるりと踵を返して走り出そうとした。
「待てよ」一宮はそう呟くと長戸の腕を握った。
「俺は、お前に何も言ってないぞ。会わないって言葉に承諾した覚えもないし、お前はあの時俺の反論も聞かずに走って逃げていったじゃないか。俺があの時から俺がどんな思いだったかなんて知らないんだ。お前に会いたかった。それなのにお前は彼女まで作って俺のことなんかお構いなしで、お前だって俺の気持ちを無視していたんだ。お前は俺からの言葉が欲しいんだろ。いくらでも言ってやるよ」
「一宮さん……」
一宮は壁際に長戸を追いやると顔の横に手をついた。
「お前が好きだ……」
一宮の目は少し赤くなっている。
「優しくして欲しいならしてやる、言葉が欲しいなら言ってやる。だから傍にいてくれ……」 押さえ切れなくなった一宮の感情は目頭からの水分の塊となって零れ落ちた。
「やっと、一宮さんの気持ちが聞けました。別に優しくして欲しいわけじゃないんです。ただあまりにも不安だったから。もうその言葉が聞けただけで俺は大丈夫です。今までどおりの一宮さんでいてください」
長戸は一宮の涙を拭いそっと口づけた。
一宮の頬が少し赤くなった。
「わっ、バカ。何してるんだよ」
「いいじゃないっすか、これ位」
嫌がる一宮をよそに長戸はぎゅっと一宮を抱きしめた。
「もう、離さないっすよ……」
誰にも聞き取れないような小さな声で長戸は呟いた。
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